競馬マニアック博物館

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田中勝春 裏話

今週は一週遅れで皐月賞ですね。舞台は東京競馬場。府中2000で皐月賞秋の天皇賞を制したヤエノムテキを思い出します。

でも、今回のお話はヤエノムテキのそれではありません。2007年、同レースを勝ったヴィクトリーについて触れたく思います。

この年の1番人気は武豊騎手操るアドマイヤオーラ。2番人気は安藤勝己騎手のフサイチホウオー。ヴィクトリーは7番人気の支持に過ぎませんでした。

3戦2勝ながら人気を落としていた要因はいくつかあったでしょう。1つは前々走のラジオNIKKEI杯2歳Sフサイチホウオーに敗れていたこと。そして、デビュー戦、2戦目と手綱をとった武豊騎手、3戦目に跨った岩田康誠騎手から乗り替わったことも大きかったでしょう。

新たなるパートナーとなったのはカッチーこと田中勝春騎手でした。

カッチーは関東の名バイプレイヤー。しかし、ことGIに限ると92年のヤマニンゼファー安田記念を勝って以来、15年間、1着はありませんでした。その間、JRAのGIに限ると139連敗。惜しい2着は何度もあったのですが、勝ち星からは見放されていたのです。

そんな境遇で騎乗することになったヴィクトリー。管理するのは関西の音無秀孝調教師でした。

音無調教師はレース前、田中勝騎手に次のように言ったそうです。

「掛かる馬だけど、逃げないでくれ。逃げたら最後まで粘るのは厳しいと思うよ」

この言葉を守ろうと、スタートはゆっくり出していった田中勝騎手。しかし、案の定掛かると、「我慢できない」とばかり2コーナー過ぎに先頭に立ちました。この時点で音無調教師は目を覆ったと言います。

最後の直線、粘るヴィクトリーに襲いかかってきたのはアドマイヤオーラでもフサイチホウオーでもありませんでした。並んで叩き合いとなったのはサンツェッペリン。鞍上は若い松岡正海騎手でした。後に田中勝騎手は次のように語っています。

「豊さんや安藤さんじゃなくて、若い正海だったから、絶対に負けちゃいけない!って思って追いました」

結果、ゴールでは頭の上げ下げの勝負になりました。その瞬間、田中勝騎手は「また負けちゃった……」と感じたそうです。

しかし、結果はハナ差、粘っていました。実に15年ぶり、JRA・GIの連敗を139でストップする待望の勝利だったのです。

「勝てたから良いけど、音無先生の希望するような騎乗を出来ず、ハラハラさせて申し訳なかったと思いました。あれで負けていたら大変だよね」

田中勝騎手はこう言うと、舌をペロリと出して愛きょうのある笑顔をみせました。

これに対し、音無調教師も言いました。

「結局、逃げて勝っちゃった。この競馬に関してはカツハル君の方が正しかったということ。僕はレース前に余計なことを言ってしまい、カツハル君には申し訳なかった」

終わって尚、互いを思いやる気持ち。そんな二人の性格がもたらした勝利だったのかもしれませんね。

レース後の表彰式では、ターフの上で田中勝騎手が関係者から手荒い祝福を受け、それをみた観客は爆笑していました。しんみり来るような勝利シーンも心を震わせるものがありますが、たまにはこんな底抜けに明るい勝利も良いもんだなぁ……。そんなふうに思ったのを覚えています。

さて今年は東京競馬場で行なわれる皐月賞。じんわり心に響く勝利シーンをみられるのか、それとも皆が笑顔で称えるシーンが待っているのか。今から楽しみでなりません。いずれにしても良い勝負を期待したいですね。

皐月賞には、たくさんの思い出がある。
ヴィクトリー号もそうだ。
馬券は人気の武豊のアドマイヤから買ってたのだが、ゲートが開いて数秒で終わったと感じた。
ライバル、フサイチもそうである。
有力馬2頭が無謀な後方に位置していたからだ。
ゴール後、熱くなった客がスコップや枝切りバサミで武豊、安藤、両ジョッキーを襲うところであったが、
勝ったのが田中勝春だとわかった瞬間に、気持ちのよい顔になっていた。
自分も妙に血の気がひいて、すがすがしい思いになったのを覚えている。
「139連敗しても腐らず乗った」とインタビューで答えるカッチーを見て、ダービーは勝春から買うと心に誓った。
だが、ダービーでは出遅れ。
こんなジョッキーだが、今日の皐月賞も勝春騎乗のフェイトフルウォーから勝負しようと思う。