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【競馬】天皇賞(春)は「最強世代」の新たな物語のはじまり
新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
日経賞では他馬を引き離して圧勝したトゥザグローリー。今のところ打倒・ヴィクトワールピサの最右翼だが、はたして激戦の天皇賞(春)を制することができるか……。
昨年来、日本の競馬界で、ひとつの定説として語られてきたのは、現4歳世代が「強い」ということだ。重賞レースでは上位を独占することもしばしば。しかも、その代表格であるヴィクトワールピサは、有馬記念で女傑ブエナビスタを下し、世界的GIのドバイワールドカップまでも制した。
そのうえ、ヴィクトワールピサが必ずしも「世代ナンバー1」とは言い切れないほど、この世代の層は厚い。それゆえ、競馬サークルの中には、1999年に同期のスペシャルウイークとエルコンドルパサーが年度代表馬を争ったとき以来、久しぶりに出現した「最強世代」という声もあるほどだ。
そして間近に迫った天皇賞(春)で、ヴィクトワールピサを除く「最強世代」の精鋭たちが一堂に会し、激突する。芝3200mの天皇賞(春)は、長距離戦を軽視する世界的傾向を受けて、一部には不要論さえあるが、今年はそんな不要論を黙らせるくらい楽しみなメンバーがそろった。
まずは、トゥザグローリー。母が名牝トゥザヴィクトリーという良血で、昨春から「大器」と言われ続けてきたが、今年になってようやく本格化した。
特に前走の日経賞(芝2400m)は圧巻だった。同世代のライバル、ペルーサに楽々2馬身半の差をつけて快勝。これには、デビュー2戦目以来の騎乗となった鞍上の福永祐一騎手も「古馬になれば強くなるとは思っていたけど、まさかここまでとは……」と舌を巻いた。
その日経賞でトゥザグローリーに敗れたとはいえ、2着のペルーサと3着のローズキングダムも、同一戦だけで評価を下げる必要はない。
2着のペルーサは有馬記念以来だったことを思えば、伸びしろは十分。加えて南米系の母系から、いかにも“タフ”という印象を受ける。ある競馬関係者によれば、「主戦のノリちゃん(横山典弘騎手)が前走(日経賞)でかなりの手応えを得たようで、『今度はいい』と強気です」とのこと。距離が延びての逆転は大いに考えられる。
3着のローズキングダムも、昨年のジャパンカップ馬で格では上。日経賞では他馬より1kg重い斤量だっただけに、斤量差がなくなる今回はプラス材料だ。ただし「トゥザグローリーも同様なんですが、陣営は距離が延びるのはプラスとは思っていないようです」と関西の専門誌トラックマンが打ち明ける。
「最強世代」の精鋭は、日経賞組だけではない。強敵相手の産経大阪杯(芝2000m)で初の重賞制覇を成し遂げたヒルノダムールと、同馬より2kg重い斤量59kgを背負ってハナ+クビ差の3着だったエイシンフラッシュも侮れない。
ヒルノダムールは、前走でこれまでの「善戦マン」を返上。もともと皐月賞2着の実力に、“勢い”が加わったことは大きな魅力だ。
エイシンフラッシュは、なんと言っても昨年のダービー馬。大阪杯で敗れたとはいえ、ゴール前の脚はここまでの不調を払拭するほどのキレがあり、復調気配が感じられた。
もともと評価の高かった有力馬を挙げても五指に余るが、天皇賞(春)に出走する同世代はこの他にも、ダイヤモンドSを勝って、阪神大賞典でも2着に入ったコスモメドウをはじめ、オープン特別の大阪-ハンブルクCを勝利し、菊花賞3着の実績を持つビートブラックのような上がり馬もいる。
まさに、「最強世代」の豪華なメンバーがそろって、ここ数年とはひと味もふた味も違う、古馬の最強馬を決する天皇賞(春)を堪能できそうだ。
日本の競馬は過去3年、牝馬が年度代表馬に選ばれるという「女性上位」時代が続いたが、おそらく彼らがその流れに終止符を打つはず。そして、日本の競馬の焦点は、ここにヴィクトワールピサを加えた同世代の「5強」あるいは「6強」によるライバル物語へと移行していくだろう。
天皇賞(春)は、その物語の幕開けだ。
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トゥザグローリー、ペルーサ、ローズキングダム、有力3騎だが、ステイヤータイプと思えない。
マイルから中距離で力を発揮できる馬だと思う。エイシンフラッシュはダービー以降、さっぱりの成績で終わった感が強いし、ヒルノダムールは連戦の疲れでガス欠の可能性が高い。今年の天皇賞(春)は、どの馬にも短所があり、あっと驚く結果になると思う。