競馬マニアック博物館

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オークス 調教師 血みどろな師弟対決

 世間のご多分に漏れず、競馬業界も少しずつ人間関係がドライになりつつある。

 デビューする新人騎手は必ずどこかの厩舎に所属して、師匠(調教師)の薫陶を受けることになるが、以前のようにその関係は長続きせず、早々とフリーになるケースが少なくない。

 調教師と騎手の関係だけでなく、調教師とそのスタッフの関係も変わりつつある。いずれにしても、人間関係が希薄になってきた感は否めないのだが、中には強い絆で結ばれている師弟もいる。

 今年のオークスは、桜花賞組と、桜花賞に出ていないトライアル組との対決という構図になっている。後者の中でも、トライアルを制した2頭、バウンシーチューンとアカンサスは、それぞれ田島俊明調教師、畠山吉宏調教師の管理馬。このふたりは師弟関係だ。師匠が畠山吉師、弟子が田島俊師となる。

GIに初挑戦する田島俊師の妥協を許さぬ仕事ぶり。

 バウンシーチューンを管理する田島俊師は、調教助手として長らく畠山吉厩舎で勤務した後に調教師免許を取得。

 恩師の元を巣立って3年目の今春、重賞初挑戦でフローラSを勝つという離れ業を演じた。もちろん、今回がGI初挑戦ということになる。

「そうですね……。前回が初めての重賞だったので、本当にありがたいことでした。この馬はデビュー前から背中の感触も良くて、期待はしていたんです。でも、どこまで走ってくれるかは分からなかったですしね。ここに来て力をつけている感じを受けます」

 まだ30代半ばの若手トレーナーは、初々しくGI初挑戦への抱負を語る。

 師匠の畠山吉師ともども、取材に対する受け答えが極めて誠実だ。当然ながら、仕事では妥協を許さない厳しい姿勢を見せているが、本来は師弟ともに真面目な人柄で知られている。元来の人間性と、師弟で築いてきた絆が、そうした対人関係の礎となっているのだろう。

強い絆の師弟が送り出す2頭に見られるふたつの共通点。

 今回、師弟が送り出す2頭には、ふたつの共通点がある。

 とても小柄な牝馬であること、そして、デビューからすべてのレースで上がり3ハロン最速という末脚自慢であること。

 期せずして、ここも師弟の絆を感じさせるような形になった。実は、畠山吉師も牧場時代のバウンシーチューンを覚えているという。

「(生産牧場の)社台ファームさんに田島(俊師)と一緒に行った時に、私も見ているんです。ずいぶん小さいな……と思いました。正直、私のところに来る男馬の方が、一緒に見ていてもいいと思っていましたよ」

 苦笑い交じりに「見る目がなくて」と頭をかく畠山吉師だが、今も師弟で牧場めぐりを共にするふたりだからこそ印象に残っているのだろう。

繊細なアカンサスを根気よく調教した畠山吉師の「見る目」。

 その畠山吉師が送り出すアカンサスも、バウンシーチューンと同じ社台ファームの生産馬。前走のスイートピーSを鮮やかに差し切って、大舞台に駒を進めてきた。ここまでには、本当に「見る目のない」トレーナーであれば不可能な苦労が隠されている。

「とにかくカイバ食いが細い馬で……。使うたびに牧場に戻しているんです。それでも一戦ごとに馬体重が減っていただけに、前回のプラス2kgは貴重でした。経験を重ねるごとに、少しずつレースにも慣れてきたんでしょう。カイバも徐々にですが食べられるようになってきましたから」

 繊細な牝馬は、扱いを間違えると能力をまったく発揮できなくなるケースも多い。根気よく取り組んで改善の方向性が見えたからこそ、前走の勝ちにつながったのだろう。

 登録馬の過半数関東馬となった今年のオークスは、美浦トレセンも大いに活気があった。

 桜花賞組が人気を集めるメンバー構成とはいえ、ここに来ての上り調子と、破壊力のある末脚を持つ2頭は本番でも注目の存在。しかも、師弟対決という構図になる。

 弟子にあたる田島俊師は「親分(畠山吉師)の馬に負けないように頑張ります」と殊勝な口ぶりで話したが、畠山吉師はいたずらっぽく笑って“真相”を教えてくれた。

「田島が、“ウチの馬はGII勝ち馬ですから。先生の馬とは格が違います”なんて言うんですよ。よろしくお願いします、って答えておきました」

 むろん、田島俊師が本気で師匠を見下しているわけではない。長年の深い付き合いで冗談も言い合える仲ゆえの微笑ましいエピソードだ。

 とはいえ、ともに牧場を回り、ともに軽口を叩き合う関係でも、今回ばかりは真剣勝負のライバル同士になる。

 小さな体を目いっぱいに使って走る、末脚自慢のバウンシーチューンとアカンサス

「2頭でトライアルを勝って、どちらも小さな馬ですよね。こちらは後ろから行くのが持ち味だと思うので、展開さえ向けば……」と田島俊師が言えば、畠山吉師も「今回は今までと相手が違いますが、コントロールはしやすいタイプですから。直線までうまく運べれば……」と虎視眈々と一発を狙っている。流れ次第では、師弟で上位独占……というシーンも十分にありそうだ。