随分と前の2月10日。
今でもはっきりと覚えている。
自転車かごに入れたサラブレッドカードの箱が転んだ拍子に路面に散らばってしまい、サラブレッドカード95のオグリキャップメモリアルの無事を祈りつつ血だらけの両拳、真っ赤に染まった左頬の擦り傷の痛みをこらえながら必死に拾った。
68歳の頃の話だ。
北の国からの五郎さんに憧れニット帽にドカジャンを着て「やるなら今しかねぇ」って歌いながら自転車を全力疾走していた。中野浩一が好きだったから。
それだけ…。
競輪でいう落車ってやつだ。
一緒にカードを拾ってくれたあの子たちは今どこで何をしているのだろうか。
サラブレッドカードを不思議そうな目で見ながら拾ってくれた。
その中に深田恭子が入ってて寒空の路面でニコッと笑ってたな。水着で。
あの日は体内の細胞が活性化するような暖かな陽気でなぜだか朝から気分の高まりが強かった。
日の沈みかけた頃にハイテンション自転車から一辺、思いがけない落者、怪我、子供たちの純粋な眼差し、死にたくなった。
その日は少し離れた街に住む競馬トレカ仲間の家で夜な夜な飲んだ。
「やるなら今しかねぇ」
暖かな風と春の香りと共に明日へ向かった。